「劇団 ギャングちょんまげ」について

5月のあの日、少し曇りがかった昼と夕方の間の時間帯に、徳島県は東みよし町と井川町を結ぶ鉄橋の下の畑で、バラエティ番組の撮影が行われていた。

撮影には一組のお笑いコンビと、二人のグラビアタレントが参加していた。

 

コンビの名前は「劇団 ギャングちょんまげ」。

大衆演劇を基調にしたネタを得意とし、徐々にではあるけれども、名前は世に広まりつつあった。

諸井とモローの二人組で、ともに28歳。

高校時代の友人という間柄でコンビを結成した。

諸井はどちらかというと社交的で、先輩芸人や業界人にもかわいがられ、コンビの人脈作りを担っている。

反対にモローは物静かで気難しく、あまり芸人仲間などと関係を持とうともしないが、ネタ作りの大半はモローが担当している。

よくありがちな役割分担である。

二人はネタ中以外でも、仕事のときは絶対にネタでかぶる大衆演劇用のカツラをかぶっている。

二人の意見が合致した上でのかつら着用ではあるが、本質は異なっていた。

諸井には、視聴者や客に対し視覚的に定着してもらうためのキャラ付けという意図があった。

モローは、芸人でいる時間とプライベートな時間とをはっきりとわけるためのスイッチ的な役割としてかつらを用いていた。

本質は異なるが、意見が合致しているのだからそれでいいのだ。

二人は今年を勝負の年として見ており、テレビのコントのコンテスト番組での決勝進出は絶対目標である。

その点は二人は当然として共有していたが、その他の仕事のスタンスに関してはズレが生じていた。

諸井はバラエティ番組にも積極的に出て名前を売り、そのことが決勝進出にも繋がるだろうと思っている。

モローはバラエティ番組には否定的であり、そんな時間があればネタを練りライブに一つでも多く出演するべきだという考えがある。

二人はコンビを名乗っているが、実は他にも4人の流動的なエキストラメンバーが所属していた。

二人は4人にはギャラを払っていなかった。

諸井は、これから売れていこうとしているのだから、そういう部分に関してはちゃんとしていかなければいけないと思っている。

だから世間にバラエティ番組に積極的に出演し、4人のギャラ分を貯めていく必要があると考えている。

モローは、4人にギャラを払うのはまだいいと思っていた。実際4人とも「楽しいからギャラはいらない」と言っているし、自分たちの生活もまだ安定していないのに、ギャラを払っていたら逆に4人に気を使わせてしまうのではという考えがある。

とにかく二人には様々な思い、感情、思想があった。

 

この日のバラエティ番組の撮影にも、二人のスタンスが表れていた。

積極的に番組を回す諸井と、やや抑え気味のモロー。

もちろん二人の頭にはかつらがかぶせられている。

撮影は淀みなく進み、畑の野菜を収穫するシーンになった。

すると、なぜか共演の二人のグラビアタレントが急に水着になりだしたかと思えば、間髪入れずに上の水着を脱ぎだし、畑にダイブしだした。

まさかの事態にパニックに陥る諸井とモロー。

「なんだこれは!こんなこと今の時代には絶対にダメだ!せっかくのバラエティのチャンスが、二人のチャンスが台無しになってしまう!」

 

 

 

ここで目が覚めた。

携帯を見るとまだ5時50分だった。

立ち上がりトイレを済ますと、諸井とモローが実際には存在しない寂しさと、それを上回る「あと1時間半も眠れる」という喜びを抱え、再びベッドに横になった。

 

ここまでこんな文章を読んでいた方、申し訳ありません。

夢オチです。

「劇団  ギャングちょんまげ」という言葉のとてつもなく強烈な響きと、「諸井」と「モロー」という字面の良さが頭から離れずに書いてしまいました。

(二人の名前を合わせて「諸井モロー」。めちゃくちゃいい。何かチャンスがあれば名乗ってみたい。)

ごめんなさい、ストロングスタイルの夢オチです。